見えないけれど、確かに其処にあって
あなたに気付いて貰える日を
じっと待っているんだ
朔一通り仕事も片付き、縁側で酒を飲む
いつの間にか日付も替わっていたらしく、屯所内は静まり返っている
酒を注ぐ音と、虫の声だけが耳に届く
「今夜は星が綺麗だな・・・・」
顔を上げれば、星で埋め尽くされた夜空が広がる
「最近はゆっくり星を見る時間も無かったからな」
一人そう呟いた時、塀を乗り越える影が視界に入った
「よいしょっと」
足が砂利に埋まる音が中庭に響き、その音はこちらに近づいて来る
「此処の塀って、無駄に高いよね」
「高くないと意味無いだろうが」
「あ、そっか。簡単に進入できたら意味無いもんね」
「お前は毎度毎度意図も簡単に進入してくれるがな」
「銀さんは特別☆」
にこっと笑ったこいつの笑顔に跳ね上がる俺の心臓は、恐らく病気だろう
俺から少し離れた所に腰を下ろすと、「銀さんも飲む〜」と俺からお猪口を奪う
「うん!おいしい!」
「お前は、何なんだよ」
「ん?」
「・・・・いや、何でもねぇ」
突然やって来て、勝手に俺の酒飲んで、他愛も無い話をして、帰っていく
こいつの行動はよくわからない
「お!今夜も星が綺麗だなぁ〜」
嬉しそうに夜空を見ているのに、何処か寂しそうな奴の顔
そう言えば、こいつとこうして飲む夜はいつも星が綺麗だ
「お前と飲む時は、いつも星が綺麗だよな」
「・・・・そうだね」
そう言うと、また寂しそうな顔をする奴
・・・・何なんだよ
「何か、あったのか?」
「え?なんで?」
「いや、なんか、寂しそうな顔してるからよ」
「・・・・星、綺麗だよね」
そう言うと、奴は夜空を見上げた
何か、会話噛み合ってないよな?
「星が、こんなに沢山見えるのはさ」
「?」
「月が、出てないからなんだよ」
・・・・ああ、そうか
月が出てないから、月の強い光が無いから、星が沢山見えるんだ
「今気付いたでしょ?」
「ああ」
「きっと皆、今の土方くんみたいに忘れてる」
「何を?」
「朔の間は、皆、月の事を忘れてるんだよ」
「でもね、」
奴は上げていた顔を俺に向けた
「今、月は見えないけれど、確かにこの夜空の何処かにあってさ。皆に気付いて貰える日を じっと待ってるんだよ」
「土方くんに気付いて貰える日を、待ってるんだよ」
そういうと俯いてしまった奴
髪の毛に隠れてしまっている頬は、真っ赤に染まっている
そうか、だからお前と見る夜空には
いつも月が無かったんだ
捻くれた態度に、可愛げのない言葉
だけど、其処に隠れている想いに
俺がその想いに気付くのを、ずっと待っていたんだ
「気付いたよ」
「・・・・うん」
「今、やっと見えた」
「・・・・うんっ」
小さく震える肩をぎゅっと抱き寄せ、耳元でそっと囁く
「綺麗な銀色の朔月だ」
見えないけれど、確かに其処にあって
あなたに気付いて貰える日を
じっと待っていたんだよ
朔 end.
↓追記よりあとがき


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